ソース接地、ゲート接地、ドレイン接地 

  3つの基本的な増幅段の中で、真っ先に覚えるべき回路は、ソース接地です。勉強がある程度進むまで、あるいは必要に迫られるまで、ゲート接地とドレイン接地(ソースフォロア)は覚える必要はありません。

  ソース接地増幅段で覚えるべきことは、AC ゲインが −gm x ( Rd || Ro ) であることです。Rd は、負荷の抵抗です。Ro は、増幅器として扱う MOSFET のオン抵抗です。ソース接地増幅段の役割は、ともかくも AC ゲインを大きくすることですから、限られた条件の中で gm, Rd, Ro をいかに大きくするかが、設計の肝となります。

  もう1つ覚えるべきことは、入出力電圧の範囲です。これは、以前別のページに書きましたので、そちらをご覧ください。

  7tr のオペアンプが設計できるようになるまでは、ソース接地増幅段の他の項目を覚える必要はありません。例えば、参考書のソース接地の項目を読むと、DC 特性が Vout = VDD ー Id x Rd となる、という説明が最初に書かれていることが多いと思いますが、後でこの式が使われることはほとんどありません。これは、ソース接地に慣れるためのツールとしては使えますが、設計に必要な知識ではありません。この理由は、「Razavi 基礎編」の 3.2.3 (P71)に書かれていますが、機会があれば、後日このサイトでも取り上げてみたいと思います。

  ソース接地の負荷には、普通の抵抗、ダイオード接続した MOSFET、ゲートを定電位に固定した定電流源としての MOSFET の3つが考えられます。このうち、初めの2つの負荷は、覚える必要ありません。定電流源の場合だけを覚えて下さい。何故なら、この時のドレイン抵抗 Rd が最も大きく、ゲインを稼ぎやすいからです。7tr のオペアンプでもこの負荷が採用されています(以前のページ)。勉強の始めのうちは、余計な項目に目を奪われず、一直線に 7tr のオペアンプを理解することを目指して下さい。ただし、他の負荷の場合の動作を考察することでも、確実に増幅器の理解が深まりますので、余裕がある時に少しずつ勉強を進めておくと良いでしょう。

  もし、アンプの負荷容量が大き過ぎる、もしくは負荷抵抗が小さ過ぎる場合には、ドレイン接地増幅段(ソースフォロア)の採用を検討します。ソースフォロアの存在意義は、インピーダンス変換ができることです。つまり、出力インピーダンスを下げることが可能です。ドレイン接地を挿入することで、大きな負荷容量に対して波形を伝えるスピードを上げたり、小さな負荷抵抗に対して電圧降下を最小限に抑えてきちんと電圧を伝えるという効果が狙えます。デメリットとしては、出力電圧が、入力電圧よりも必ず Vth だけ下がってしまうことです。

  3つ目の増幅段であるゲート接地を扱うのは、高周波回路を設計する時くらいではないでしょうか。信号処理の基本として、電圧を減衰させることなく後段に伝えていくためには、各回路ブロックの出力インピーダンスが小さく、入力インピーダンスが大きいことが必要であることが、一般的に知られています。CMOS では、ほとんどの場合、信号の入力端子はゲートです。すると入力インピーダンスはゲート容量分になるため、極めて高いインピーダンスが得られます。(〜 0 Hz では、インピーダンス = 無限大。)しかしながら、容量のインピーダンスは周波数に反比例して小さくなってしまいます。例えば、1 Hz で 1 T(テラ)Ω あったとしても、20 G Hz では 50 Ω まで落ち込みます。

  そこで、ゲート接地増幅段が有効になります。MOSFET のゲートを固定電位として、ドレインに定電流源負荷を接続しておきます。すると、ソース側から見込んだ入力インピーダンスは、定電流源の出力インピーダンスとなります。もし理想的な定電流源であれば、出力インピーダンスは無限大となり、ゲート接地増幅段の入力インピーダンスは無限大にまで増加します。よって、少々設計は面倒になりますが、高周波に極めて適した回路になるわけです。

  以上が、3つの基本的な増幅段の外観です。外観を掴んでから、具体的な数式や小信号等価回路を勉強することをお勧めします。

 

 

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