カレントミラー電流ミラー 

  カレントミラー(電流ミラー)は、アナログ CMOS 回路の心臓部です。CMOS で作られるアナログ回路の多くは、定電流を取り込み続けることで、その機能と特性を維持します。これはさながら、人間の体の臓器や個々の細胞が、心臓から送り出される血液を常に欲している様(さま)に似ています。血液の圧力が変わるだけで体に様々な変調が生じるように、カレントミラーの電流値が変わるとアナログ回路の特性も変化し、場合によっては必要な機能すら果たせなくなります。

  カレントミラーにおいて理解すべきことは、「いかに電流の精度を保つか」です。カレントミラーの動作原理を学ぶ時も、電流のコピー精度という観点に立って、理解を進めることが大切です。

 

 

  カレントミラーの動作原理はいたって簡単です。出発点は、飽和領域でのドレイン電流の式、Ids = 1/2 μ Cox W/L (Vgs - Vth)^2 (1 + λ Vds) です。 λ Vds の項は、通常 1 よりも小さく、Ids の式の中では支配的ではありませんので、とりあえず無視してかまいません。すると、MOSFET に与える電圧のうち、Ids に寄与するのは Vgs だけになります。移動度 μ と酸化膜の単位容量 Cox は、同じ回路内ではほぼ一定ですので、W/L さえ一致させておけば、複数の MOS に同じ Vgs を印加することで、ほぼ同じドレイン電流が流れてくれます。これがカレントミラーの原理です。上の図(左)のように、2つの MOS のゲート同士をつないでおけば、明らかに Vgs1 = Vgs2 ですので、I1 = I2 になります。

  動作原理はいたって簡単なはずなのですが、左側の MOS を「ダイオード接続」していることが、理解を妨げる種となることがあるようです。ダイオード接続することで、左側の MOS のドレインの電圧が定まり、Vds1 = Vgs1 となります。λ Vds の項は支配的ではありませんので、Vds をわざわざ決める必要はないように見えます。つまり、Vds がドレイン電流の式にそれほど大きく寄与しない以上、上の図(右)のように、ダイオード接続は必要ないと、考えることもできます。しかし、ここで考え落としていることが1つあります。それは、すでにお話ししたカレントミラーの動作原理は、ミラー元とミラー先のそれぞれの MOS が、全て飽和していることが前提となっているということです。

  ミラー元の MOS をダイオード接続しておかないと、左側の MOS に同じドレイン電流を流し込んだとしても、同じ Vgs になるとは限りません。それは、同じドレイン電流でも、MOS の状態が飽和か非飽和かまでは決められないからです。非飽和の場合のドレイン電流は、Ids = μ Cox W/L { ( Vgs − Vth ) Vds − 1/2 Vds^2 } です。Vds がはっきり決まらないと、場合によっては Vds < Vgs − Vth となって、非飽和になってしまい、飽和の場合の Vgs とは違う Vgs になってしまうことがありえます。回路の電源投入時には、各ノードの電位がどうなっているかは分かりませんので、飽和するかどうかは、確率に頼ることになります。

  ダイオード接続しておけば、確実に Vds = Vgs になります。すると飽和する条件は、Vds > Vgs − Vth = Vds − Vth となり、書き換えると Vth > 0 となります。つまり、Vth がプラスでありさえすれば(MOS がデプレッション型ではなくエンハンス型でさえあれば)その MOS は飽和してくれます。よって、あるドレイン電流の値に対して Vgs が一意に決まってくれます。

 

 

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