オペアンプ その4 

 「オーバードライブ電圧と入出力範囲」

  参考書で CMOS のアンプの勉強をする時には、DC 特性よりも AC 特性の方が先に書かれていることが多いと思います。しかし実際の設計では、DC 特性、特にその中でも入出力範囲を先に考えることの方が多いのではないでしょうか。仕様を満たす AC ゲインや周波数特性を得るために、トランスコンダクタンスや出力インピーダンスを一生懸命計算しても、入出力範囲が仕様を満たさなければ全くの無駄になります。何故なら、入出力範囲は、MOS の W/L や M 値ではなく、回路構成によってほぼ決まってしまうからです。

  よって、勉強の手順としては、入出力範囲を先に習得することをお薦めします。それが設計の順番に沿っているだけではなく、AC 特性の勉強よりも簡単だからです。難しいことよりも、簡単なことを先に勉強して自信をつけた方が得策です。入出力範囲は、7tr の2段アンプでいったん覚えてしまうと、多くのアナログ回路に幅広く応用できます。こうして、シミュレーションをせずにおおよそのあたりをつけることができると、飛躍的に設計が速くなります。

  入出力範囲は、回路構成および、Vth(スレッショルド、しきい値電圧)とオーバードライブ電圧によって決まります。Vth は MOS に印加される電圧によらず、プロセスによって決まる定数です(製造工程上でバラつきますが)。一方で、オーバードライブ電圧がくせ者です。

  オーバードライブ電圧の定義は、いたって簡単です。すなわち Vov ≡ Vgs − Vth です。ご存知のとおり、ゲート-ソース 間の電圧(Vgs)が Vth を超えると、MOS は ON して電流が流れるようになります。オーバードライブ電圧は、その名のごとく、Vgs が Vth をどのくらい超えているか、どのくらい余剰の電圧があるかを示す指標です。 

  定義は簡単でも、その使われかたは単純ではありません。それは、オーバードライブ電圧が、MOSの飽和 / 非飽和領域に絡んでくるからです。MOS が飽和する条件は、Vds > Vgs − Vth(= Vov !!)です。つまり、飽和する条件は、Vds がオーバードライブ電圧以上であることになります。このことは、一見オーバードライブ電圧は Vgs だけに関する量であるように見えても、実際には Vds にも影響することになってしまうという、初心者にとって混乱の種となっています。しかし、難しいと嘆いてもいられません。あきらめて、「オーバードライブ電圧は、単に MOS が ON する Vgs からの余剰の電圧であるだけでなく、MOS が飽和するために最低限必要な Vds の量を決める大切な役割を担う」と覚えて下さい。

 

 

  最近の 0.18 um 程度のプロセスでは、オーバードライブ電圧を 0.1 V 〜 0.15 V 程度とっておけば大丈夫だとよく言われます。いったい何が大丈夫なのかは後で説明するとして、この値が入出力範囲に大きく影響します。入出力範囲は以下の2つの条件だけで決まります。すなわち、
 (1)Vgs = Vth + Vov  (単に定義を書き直しただけ。)
 (2)Vds > Vov  (全ての MOS を飽和領域で動作させる。)
です。MOS はゲート、ソース、ドレインの3端子によってコントロールされる素子ですので、上記のようにゲート-ソース間、ソース-ドレイン間の関係式が決まれば、あとは電源電圧の値を参加させるだけで、入出力範囲を一義的に求めることができます。7 tr の2段アンプの場合の具体的な計算は、上図のようになります。図の式を見て分かるように、7 tr の2段アンプの入出力範囲には、オーバードライブ電圧が至る所に現れます。

 

 

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