負帰還 

  負帰還という発想は、回路設計の可能性を膨らませてくれる貴重な発明です。負帰還のおかげで、筆者のように設計力の乏しいアナログ回路技術者でも、回路の安定した出力を実現することができます。

  負帰還は、回路の出力を安定化させる設計手法です。「ネガティブフィードバック」、あるいは単に「フィードバック」と呼ぶこともあります。負帰還は、回路の世界だけではなく、工学全般で一般的に使われている手法です。負帰還は、「制御理論」「制御工学」「フィードバックシステム」といったタイトルの参考書で学ぶことができ、その内容は、直接回路に適用することが可能です。

  「安定化する」とは、回路が置かれる環境が変化しても、一定の出力を保つことができる、ということです。例えば、電源回路がとても良い例として浮かびます。電源回路の役割は、出力する電流値が変化しても、また電池などから供給される入力電圧が変化しても、仕様が 5.0 V なら 5.0 V の出力を保ち続けることです。

  出力する電流値と入力電圧の値が変化しないという条件下であれば、負帰還を使わなくとも、回路を精度良く調整することで 5.0 V という電圧を出力することができます。しかし、出力電流あるいは入力電圧が少しでも変化してしまうと、努力は水の泡となり、出力電圧は 5.0 V からずれてしまうことでしょう。知恵を振り絞れば、そのずれを小さく抑えるように設計することができるかもしれません。しかしそのためには、途方もないほどの設計の知識が必要になるのではないでしょうか。負帰還は、そんな設計のハードルを一気に下げてくれます。

  それでは、そのありがたい効用を持つ負帰還のメカニズムを、身近な例を参考にご紹介していきたいと思います。負帰還を頭の中でイメージしようとする時には、回路以外のシステムを例にとった方が簡単です。筆者が負帰還を説明する時には、保温機能付きの風呂釜を例に挙げるようにしています。

  
   風呂のお湯の温度を一定に保つシステム(上図)。これも負帰還の一種です。お湯の温度を保つためには、風呂を焚く機械がとにかく必要です。あとは、現在の温度を検知するための温度センサーと、それを設定温度と比較して、風呂を焚く機械に指令を出すための温度比較器が必要です。

  もしお湯の温度を 40 ℃ に保とうと思うなら、風呂を焚く機械が、少なくとも 40 ℃ 以上までお湯を温めることができるように設計します。この風呂を焚く機械は、何の制御もしなければ、勝手にどんどんお湯を温め続けます。60 ℃ まで温める能力があるなら、その限界である 60 ℃ になるまでずっと温め続けます。そんな中で、温度を一定に保とうとするなら、現在の温度を温度センサーで測っておき、設定温度の 40 ℃ を超えた瞬間に、風呂を焚く機械を OFF すればいい、というのは容易に思いつくでしょう。例えば、1分ごとに温度を測って、センサーで測った温度が 40 ℃ を超えていれば、風呂を焚く機械を OFF するように温度比較器が指令を出してくれればオーケーです。これが、「負帰還」です。

  まず、とにかく欲しい物理量(温度、電圧、電流など)よりも十分大きい値を出力できる装置を用意しておきます。そして、ある一定期間ごとにその出力値をモニターしておき、欲しい物理量を超えていればその装置を OFF する、というのが負帰還です。

  負帰還システムを設計するためには、欲しい物理量よりも十分大きな値を出力する装置を用意することが、1つの大きなポイントになります。ここでもう1度、風呂の例に戻って考えてみましょう。設定温度が 40 ℃ である場合に、風呂を焚く機械の能力が 45 ℃ だったとします。多くの場合はこれで事足りるかもしれません。しかし、この風呂を、冬場の北海道で使用する場合はどうでしょうか。室温がとても低いために、お湯が冷めるスピードが速く、風呂の温度を 40 ℃ まで上げることはできないかもしれません。(風呂を焚く機械の能力は、実際には温度ではなく、お湯を温めるスピードで定義するべきだと思いますが、そこは目をつむって下さい。)つまり、過酷な環境でも安定した出力を確保するためには、装置の能力が十分に高くないといけないのです。

  この負帰還システムの考え方は、そのままオペアンプにも適用できます。オペアンプの V- 端子と Vout 端子を短絡して、ボルテージフォロア(あるいはバッファ)を構成する場合を考えましょう。風呂のシステムと比較すると、オペアンプは、温度比較器から温度センサーまで全てひっくるめたものに対応します。ただしボルテージフォロアは、温度ではなく電圧を一定に保ちます。オペアンプのゲインが十分に高ければ、オペアンプはとにかく電源電圧レベルまで電圧を高めようと頑張ります。それに対して、Vout を V- に接続した負帰還の制御システムは、Vout が 設定電圧(V+ の電圧)より少しでも高くなると、オペアンプが電圧を高める動作を OFF するように働きます。

  ちなみに、オペアンプのゲインは十分に高くないといけない、というのは、アナログ回路の常識だと思います。これは、負帰還をかけることを前提にしたものなのです。

  オペアンプによるボルテージフォロアでは、基本的には風呂のシステムと同様のことが起きています。ただし1つ異なるのは、負帰還が時間的に連続して働いている、という点です。風呂は、例えば1分ごとに帰還をかけていますが、ボルテージフォロアでは常に連続的に帰還がかかっています。そのために、負帰還というシステムを初めて勉強する時にいきなりオペアンプから入ってしまうと、負帰還という仕組みをうまくイメージするのはなかなか難しいと思います。なお、ボルテージフォロアでは電圧を連続的に帰還しているとはいっても、無限のスピードで帰還しているわけではありません。帰還のスピードは、ボルテージフォロアの「帯域」で決まるということを覚えておいて下さい。

  負帰還の直感的なイメージは以上の通りです。しかし、実際に設計できるようになるためには、システムを定量的に計算することが必要です。そこで、もっと負帰還のことを知りたいという方には、以下の参考書をおススメします。一見難しい数式が並んでいるように見えますが、きちんと順を追った説明が書かれていて、気持ちよく読み進めることができます。

フィードバック制御入門 (システム制御工学シリーズ)フィードバック制御入門 (システム制御工学シリーズ)
杉江 俊治

コロナ社 1999-01


 

 

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