オペアンプ その1 

 「7tr の2段アンプから始めよう」

  
  オペアンプ。これは、アナログ CMOS 回路を設計する中で、最も出現頻度の高い回路ブロックではないでしょうか。初心者にとって「オペアンプ」は、複雑怪奇でハードルが高く、勉強するのはまだ先でいいのではないかと思ってしまう代物かもしれません。しかしながら、実際にアナログ LSI の中をのぞいてみると、あちらこちら、至る所にオペアンプが置いてあります。つまり、何を設計するにしてもオペアンプを避けては通れないようです。

  ここで、ポジティブに逆転の発想をすることが大切です。「アナログ CMOS 回路設計で大きなウェイトを占めるオペアンプを理解してしまえば、たとえ多少規模の大きなアナログ回路でも、かなりの部分を把握したことになるのではないか」と。たしかに、オペアンプは少し難しい回路です。しかし、1度勉強してしまえば、それを組み立てることでより高度なアナログ回路を比較的容易に理解できるという、でお話した「肝」にあたる回路ブロックなのです。

  オペアンプの中で最も基本的な 7 tr(7個のトランジスタ)の2段アンプは、勉強を進める中で適したマイルストーン(道標)です。普通は MOS 1個のソース接地増幅段、あるいは MOS の構造や製造プロセス、飽和/非飽和領域といった特性から勉強を始めるのが一般的だと思います。確かに参考書はこのような順番に書かれています。タイトルにはっきりと明記し、高々とオペアンプに特化した参考書だと謳っている「OPアンプ実務設計」ですら MOS 1個の動作から話が始まり、なかなかオペアンプは出てきません。これは、参考書としては正しい構成です。いきなりオペアンプから入って、後で MOS 1個の特性に戻ったりするようでは、読者は混乱します。

  しかし、参考書に書いてある順番をそのまま守って勉強するのは効率的とはいえません。それは、(ありきたりな喩えで恐縮ではありますが、)ゴールが何 km 先にあるか分からないマラソンを走っているようなものです。42.195 km だと知っているからこそ、途中のペース配分を考えることができます。

  まずは、オペアンプという1つのゴールを知ってください。ゴールを知って、逆にそこからソース接地増幅段などの、ゴールにたどりつくための途中の経路を見渡してみてください。すると、1個1個の MOS の役割が見えてきます。その役割を知ってから、基本的な要素の勉強に入ると、理解が圧倒的に速くなります。なお、いきなり AB 級のオペアンプや RF 回路といった高度な回路から勉強を始めるのは、いきなり 100 km や 200 km のマラソンにのぞむようなものです。走る気にすらなれず気持ちが萎えます。7 tr の2段アンプくらいがちょうどよいのです。

  前置きが長くなりましたが、次のページから具体的な回路構成を見ていきます。

 

 

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