オペアンプ その5 

 「(続)オーバードライブ電圧と入出力範囲」

  
  なぜ、オーバードライブ電圧を 0.1 V 〜 0.15 V とらないといけないのでしょうか?その理由の1つは、Vgs が Vth を超えるとすぐに ON するわけではなく、境目がはっきりしないからです。MOS の中では複雑な物性の現象が起きていて、Vth という値を論理的に決めるのは、最新の研究成果をもってしても難しいことなのです。いちおう、仕事関数やキャリアの密度などの量によって Vth の数式は定義することはできますが、物性の中でも特に難しいとされる表面物性が絡む Vth のモデルを、精度良く決められるとは思えません。そこで、その曖昧さをカバーするために、Vth より少し高めの電圧をゲートに印加することが必要となります。

  もう1つの理由は、工場で LSI を製造する過程で、Vth がばらついてしまうことです。ナノレベルの精度で制御しているため、ある程度目に見える誤差が出てしまうのは当然のことです。それでは、Vth のばらつきは、何に影響を及ぼすでしょうか?1つは、Vth が高めに作り込まれてしまうと、Vgs が Vth を下回ってしまって ON しない MOS が出てきてしまうという懸念があります。それなら、Vth のばらつきよりもちょっと大きめにオーバードライブ電圧を設定しておけば安全と思われるかもしれません。しかしながら、実情はもっと複雑です。Vth のばらつきは、ドレイン電流のばらつきとして現れてしまうのです。

  飽和領域のドレイン電流の式を思い出して下さい。
 Ids = 1/2 μ Cox W/L (Vgs - Vth)^2 (1 + λ Vds)
   = 1/2 μ Cox W/L Vov^2 (1 + λ Vds)
です。つまり、ドレイン電流はオーバードライブ電圧の大きさによって決まります。このオーバードライブ電圧は Vth を含むため、Vth に誤差があればオーバードライブ電圧の誤差となり、それがドレイン電流の誤差になります。すると、当然のことながら、ゲインをはじめとして、アンプの主要なパラメータに誤差が生じてしまいます。そこで、Vod を大きめにとって Vth のばらつきの影響を抑えようとすると、入出力範囲が狭くなってしまいます。Vod を 0.1 V 〜 0.15 V くらいとれば大丈夫というのは、経験的に、Vth のばらつきの影響をそこそこ抑えて、入出力範囲をそこそこ大きくとれるという、バランスがとれた値というわけです。  

 

 

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