オペアンプ その6

 「アナログ回路では MOS を常に飽和させて使う」 

  「オペアンプの中の MOS は、飽和させて使った方が、飽和しない時に比べてゲインが大きくなり、得である。」これは、MOS の基本特性から簡単に得られる、1つの結論です。なぜなら、飽和領域の方が、トランスコンダクタンスが大きく、出力インピーダンスも大きいので、そのかけ算で表されるゲインもまた大きくなるからです。

  これは、オーバードライブ電圧(Vgs−Vth)を一定にして、Vds を変えていってそれらの量をグラフにしてみると、すぐに分かります。トランスコンダクタンスについては、「Razavi 基本編」の例題2.2が参考になります。出力インピーダンスは、よくある「横軸 Vds、縦軸 Ids」の図で、グラフの傾きの逆数が出力インピーダンスになることをふまえると、値がほぼ一定で傾きが緩やかな飽和領域の方がはるかに大きいことが確認できます。

  ただし、MOS を常に飽和させて使うのは、単にゲインが大きいから有利という理由だけではありません。ゲインが変わると、AC 特性が変わります。すると例えば、飽和 / 非飽和領域のそれぞれで独立した AC 解析をやるはめになり、シミュレーションの手間が大幅に増えます。また、出力インピーダンスが変わると、そのアンプのドライブ能力が変わります。すると、過渡解析の手間も2倍になり、その結果やっぱり非飽和領域では能力が足りないということで、仕様を根本から見直さなければならない事態になってしまうかもしれません。

  このようにちょっと口うるさく書いたのは、これをよく理解してシミュレーションをしないと、簡単に失敗できるからです。それは、「オペアンプ その4」でお話しした、オペアンプの入出力範囲に関連します。このページでは、入出力範囲はオーバードライブ電圧によって制限される、と書きました。そしてそれは、MOS を飽和させて使うためだとも書きました。ただ、実際にシミュレーションをしてみると、その範囲を超える電圧を出力することができます。例えば2つの入力端子の間に +1.0 V くらいの電位差をつけてみると、出力は電源電圧(VDD)にはりつきます。すると、「なんだウソを教えたのか」と叱られてしまうかもしれませんが、それは誤解です。「オペアンプ その4」で示した入出力範囲は、全ての MOS が飽和して動作するようにあえて制限した範囲なのです。

  例えば、会社の上司に「このアンプの出力範囲を見積もってくれるかな?」と頼まれて、よく分からないので試しに入力電圧を振って出力電圧を見る DC シミュレーションをしてみたら、電源電圧までいけたので「上は VDD まで使えます!」なんて安易に答えたら叱られます。出力段の PMOS と NMOS のそれぞれのオーバードライブ電圧を計算することが、求められている仕事です。このように、アンプの入出力範囲は、DC シミュレーションの結果だけから簡単には決められないので、飽和領域で動作させなくてはいけない理由をよく理解しておくことが大事です。  

  この飽和 / 非飽和領域でのアンプの動作はちょっと面倒なので、後日改めて取り上げてみたいと思っています。  

 

 

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